三億の鼓動

「二次創作で利益を出すのは悪いこと」という謎ルール

おっす!ひさしぶりだな!

3行しか読みたくない方に最初に3行でまとめておきます。

・二次創作がアウトかセーフを判断できるのは権利者だけ
・アウトかセーフかの判断は利益が中心だと思っていると危険
・権利者ではない人間が「利益」を理由に他人に売価を変更させようとする行為は危険。

というお話です。

はじめに:同人誌で利益を得るのはどうなのよ議論

さて、2年ぶりのコミケが近づいてきたことで、いつもお馴染みの
「同人誌で利益を得るのはアリかナシか」という議論が巻き起こりました。

これ自体はいつものことです。
私もこの手の議論にはじめて言及したのがいつか調べたら2005年でした、定期的に出る話です。

ところが今回は違います、コミケがなかった2年間のあいだにTwitterに「スペース」という機能が実装されてたのです。
飛び道具と投げっぱなしジャーマンが飛び交う危険で記録の残らないVCです。
議論はいつもに増して白熱していきます。
私もいつものことなので当たり障りのない発言をしていたのですが、ある夜にとても気になる話を2つ聞くことになりました。

1つは「現在進行形で利益を出すなと強要されている」という話、
もう1つは「二次創作で利益を出すのは悪いことだよね」という話です。

この2つは別の話のようで根は同じなのかもしれません。
そしてその根っこについて考えてみれば、そこには事実誤認と謎ルールが存在しました。

1:価格を下げるべきという要求

まず、1つ目の被害者の方は女性向けのジャンルで活動されている方でした。
実際に利益が出ているかどうかは無視された状態で「利益を出すな、価格を下げろ」としつこく言われているそうです。

女性向けは「二次創作で利益を出してはいけない」という観念が強く働いているそうです。
…そうです、と他人事のように言いましたが、実はこれまでそれらしい話は伝え聞いていましたし、実際に見たこともあります。

利益を出さないように同人誌の価格を原価ギリギリまで下げる
無料配布のノベルティで利益を調整する、
同人誌即売会運営に対して利益をだないように、高額の景品がついた企画を行う、
これらのことが当然として行われているということを。

どれも議論のある行為なのですが、これまで見て見ないふりをしてきました。
自分は女性向けジャンルに居る人間ではないということと、
「女性向け」だからということを問題にしてしまえば性差やジェンダー論に突入すると思っていたからです。
(本質は男女関係ありません、今回も性差は議論の対象ではないと明言します)
(また、この文章を読んだうえで女叩きの差別を展開するのはやめてください)

しかしTwitterスペースで聞いた声は絞り出すような悲痛なSOSでした。
話を聞いておいて「知らん話だ」とはいくめえよ。

2:利益とは本来悪いことなのか

そしてもう1つの話題、これは別日のTwitterスペースで聞こえてきた話でした。
「二次創作で利益を出すことは本来悪いこと」という意見です。
ほんとにそうなんでしょうか?

同人誌を知らない人ではない、つまりコミケ等の参加者からの発言でした。
私はこれについて相互理解をしようと努力しましたが、失敗に終わりました。

この2つの話は、別の話題のようで実は根本は同じだと思われます。

それは「同人誌がお目こぼしされているのは利益をだしていないから」という事実誤認です。

二次創作で利益を出すことが悪いことかどうかは関係いのです。
良いも悪いもありません、利益は結果でしかありません。
はっきり言えば、同人誌の価格設定は同人誌を作った人が自由に決めて良いものです。
原価がどのくらいかかったか、利益がどのくらいになるのか、ならないのか、すべて作った人の裁量で決めて良いものです。

その代わり自分で責任を持つということは言うまでもありません。

3:なぜ同人誌はお目こぼしをうけているか

実際のところ二次創作がお目こぼしをされているのは、権利者が二次創作者を訴えていないからです。
冗談でいっているわけではありません。
権利者には二次創作を自由にさせる権利も、違法とみなし訴える権利もあります。
(二次創作においてガイドラインが優先される理由はここにありますが、今回は触れません)

同人誌がグレーですよというのは、権利者が何らかの判断を下すまでに猶予があるという意味です。
権利者次第で海賊版と裁判になる場合もあれば、黙認される場合もあります。
そこに利益をだしてなければセーフという条件はありません、法律にも明記されていません。
利益が出ていようが、出ていなかろうが、権利者がアカンといえばアカンのです。
理由は利益とは限らないことのほうが多いのです。

同人誌は原作と明らかに違う点がいくつかあります。
例えば絵柄が違う、奥付に二次創作者の名前がある…etc…これらのことによって、これは「原作を騙ったものではありませんよ」ということがわかります。
ここで原作者の名前を騙ったり、原作の著作物をそのまま使うと“怒られ”ます。
また、原作にとって好ましくない行為(例:勧誘に使うなど)をすると、これも“怒られ”る可能性があります。

過去に”怒られた”事件について調べてみても、原作と誤認される可能性があるものや、ロゴなどをそのまま使ったケースなど、つまり海賊版を作ったとみなされたパターンが多数です。
(ドラえもん最終回事件等)
それら怒られたケースにおいて利益を生んだかどうかということは無関係でした。

過剰に利益をだすと権利者の権利を侵害したとみなされるケースが無いとは言いません、
しかし「利益を出していない」はセーフティではありません。言い訳になりません。

追記:イメージを毀損したと訴えられる可能性もあるし、近年のガイドラインの傾向からもそちらのほうが問題視されているような印象をうけます。(勝手に性癖を植え付けた等)

4:ファールラインはどこか

上記を踏まえて、二次創作者が「利益を出すことはホントはアウト」という認識を軸にしているのは今後の活動をしていく上で非常に危ないと感じます。
ファールラインをちゃんと認識しないまま活動することになっているからです。
また自身の活動そのものが矛盾をはらむことにもなりますし、利益を盾に攻撃をしてくる輩も生まれます。
「アウトかセーフかは権利者が決めること、利益は争点に含まれないこともあるよ」が正確なところではないでしょうか。

また、他人に対して「利益を生まないように価格を調整しろ」と第三者がいうのもおかしな話です。
第三者は権利者ではありません。権利者の権利を勝手に遂行していることになりえます。

しつこく価格の改定を迫るというのは強要罪ではないかという意見も出ました。
調べてみると「義務ではないことを強要する、権利行使を妨害する行為」は強要罪が成立するそうです。
実際に成立するかはさておき、今まで他人に価格の改定をしつこく要求した人は考えてみてたほうがいい意見です。

はっきり言いますが、「二次創作は利益を出していないから許されている」は二次創作界隈で生まれた勝手な謎ルールであるといわざるをえません。
その謎ルールのために嫌がらせ、脅迫を受けている人がいて、筆を折るまでに至るということは残念でなりません。

繰り返しますが「あなたが利益を出していることが問題なのではなく、貴方の行為によって権利者の権利を侵害したときに問題になりますよ」ということを言っています。

5:その配慮は危険である

利益を生まないように利益分相当をグッズ等の無料配布で調整する行為は逆に危険です。
グッズは同人誌に比べて権利を侵害しやすい構造になっています。
商業上の競合が存在しやすく、原作との見分けがしにくく、そして被害を被る企業が多数になる可能性があります。
やってること逆効果だって思ったほうが良いです。
グッズで利益をださなければ税の問題もクリアねと思ってるのであれば、それも大きな勘違いです。

公式のグッズより安価に同人グッズを売るというのは、公式から見ればダンピング(不当廉売)でしかありません。
つまり公式の商売を邪魔しているのです。
そっちのほうが迷惑ですよ、考えたことがありますか?

最近の公式からのガイドラインを見ても、利益ベースではなく売り上げ金額ベースで指示されているように思います。
公式からみれば、利益の有無にかかわらず、金額が大きくなれば商売の邪魔ということでしょう。

「利益を出さないようにみんなで努力するのはジャンルのため」
「これまでがんばってきたのに一人のためにジャンルが潰れたらどうする」
という意見も見かけました、これらに関しては事実かどうか疑わしいと感じます。
ジャンルが潰れるとおっしゃりますが、利益云々が原因で潰れたジャンルを見たことがありません。
(あったのなら訂正しますので教えてください)
自分の欲望を満たすために権利者の権利を勝手に使ってはならない、と申し上げておく次第です。

人が居なくなって潰れたジャンルは見たことがあります、
ジャンルのためを旗印に他人を攻撃したりしていればそのほうが空気悪いですね。

補足:頒布という言葉について

ついでに述べておきますが
同人誌は利益を出していないから「頒布」という言葉を使っているという意見を見かけますが、これも事実誤認です。

頒布という言葉の意味は、
有料無料に関係なく、公衆に譲渡したり貸与したりする行為、ということです。

有料か無料かは関係ないのです。そして利益に関しても触れられていません。

即売会会場には有償のものも、無償のものあります、それらを一括りに指す言葉として便利なので頒布という言葉を使っているにすぎません。
全員が参加者だという主義ともマッチしているという点はあることにはあるのですが、
”利益を出さないために”というのは二次創作の界隈から生まれた謎ルールです。

ということで、頒布=利益を出していないというのがそもそもの誤認なのです。

さいごに:

このように二次創作の世界には、誰かが事実を誤認した謎ルールがけっこう存在します。
謎ルールが謎ルールのまま放置されるのはとても危険です。

何をどうするのか、何がアウトでセーフなのかは個人個人が考えるべきことであります。
思考を停止せずアップデートし続ける必要があると考えます。

同人誌の価格については作った本人が決めることで、他人がとやかく言う問題ではありません。
ジャンルを守るを名目に価格の統制を強いられるのもおかしな話です。

あわよくば謎ルールが潰え、謎ルールを元に他人を攻撃するようなことがなくなり、筆を折る人がいなくなるように願います。

※補足1

権利の侵害行為に利益が関係するのは、実際に権利者が損害賠償請求に踏み切った場合で、
その際には利益の額が損害額と推定されうる点には注意が必要とのご指摘を頂きました。
また利益が莫大なものになると「一線を超える」ということはあるかと思います。

※補足2

この話をしてから数日にわたっていろいろな反応がありました。

同人活動の利益の話で、なぜ私が頑なに利益の有無について触れたがらないのか不思議に思われるかと思いますので一応言及します。 二次創作なら過度な利益を出さないほうがいい、という意見を真っ向から否定するつもりはないのです。 ですがその意見の付け方が良いとも思えません。

確かに同人活動には金銭のやりとりが発生します。ですが多くのサークルは年間の収支が赤字というのが実態です。 黒字であっても5万円以内というサークルが8割という統計もあります。 マジで利益だすの難しいんだって…。

ここでいう収支というのは、サークルを運営するにあたって”どこからどこまで”かはサークルの実態によってさまざまです。(交通費を入れる入れないの話すると地方の人間は不利じゃん) つまりサークルによって抱えている事情は異なるのです。 そこで「この本ならこの価格が相場だろう」と第三者が勝手に決めてしまわれることが困るのです。

活動の実態と価格がマイナス方面に釣り合わないサークルは一方的に不利になるばかりです。 そもそも同人活動の本筋は成果物(本)を出すまでにかかったコストを成果物を求める者で案分しましょうということではないでしょうか。 そのバランスが崩れれば活動を続けることが困難になります。

同人誌の成り立ちを思えば、頒布価格とは本を出すまでにかかった費用を案分したものです。
本来はサークルメンバーから印刷代を徴収し、できたものはサークルメンバーに還元するそれが同人誌の始まりです。(グッズでも根本は同じ)
そこを第三者にも供給するためにお金で解決しているのが現状です。
できた成果物に掛かったコストがどのくらいかというものは作った人が計算し、作った人が案分する分を価格として提示する。
価格設定について第三者が物言いをつけるのはかかったコストを否定するということになるんですが、そんな他人のぬか床に手つっこむよなことはおよしなさいよ、という話。
活動する人が居なくなれば衰退する文化なのです。 利益はそこを起点にいくらでも無理を言いつけることができてしまうのです。 ハッキリ言ってしまえば不毛でしかないのです、なので利益をコテに他人にどうのこうの言うのをやめよう、と私は言っています。